憧れの都会へ到着した福ちゃんには、どこにも・誰にも頼れません。
まず、住む所と、食う事を確保しなければなりませんでした。
「さて、どうするかな…」
当てもなく、ただウロウロさまよっているうちに、ふと、電柱に貼られた一枚の募集広告が目に入りました。
『急募・新聞配達員(住み込み可) 山川新聞舗』
「おっ! ラッキー・ラッキー」と、その店へ飛び込みました。
頭のてっぺんが だ〜いぶん 薄くなった店主が、店の奥からヨレヨレの暖簾を右手で持ち上げ、
胡散臭そうな顔で福ちゃんを覗き込み、「どなた?…」
バーコード親爺のしつこいほどの面接を受け、なんとか採用された福ちゃんは、
二階の薄暗い一部屋を与えられ、その日の内から、仕事を始めることになりました。
まず、最初の仕事は新聞にチラシ広告の挟み込み。
単純で簡単な仕事に見えたが、オットドッコイ、これが大変な仕事。
短時間の内に、山と積まれた新聞に挟み込みを完了しなければならないんです。
バーコード親爺と、(後で分かったことだが)歳の割には妙に若作りのオババと、
『アマちゃん』と呼ばれる三十代半ばのトッチャン坊やと福ちゃんの4人での作業。
気が遠くなるような錯覚に襲われながら、何とか終了させました。
その時を待ち構えていたかのように、バイトの配達員が続々出勤して来て配達します。
福ちゃんは、当分の間『アマちゃん』の後について、家を覚えながら配達する事になりました。
『アマちゃん』は元気です。ペダルを漕ぐ足が、軽快です。
それに比べて、福ちゃんは…もう、大変です。
配達し終わる頃には、街の灯かりが点り始め、あちこちの家から夕食の香りが、
ほのかに、漂い始めていました。


こうして、福ちゃんの新たな生活がスタートしたのです…