二ヶ月を過ぎる頃から、福ちゃん一人で配達できるようになりました。
ほんの少しだけ強くなったようです…福ちゃんの足腰。
ある日の早朝。一人の女の子が、まだ暗い公園のブランコの側でうずくまっていました。
「♪ボクのなまえをしってるかぃっと… 朝刊福ちゃんっていうんだよっと…♪ あれっ…」
女の子に気づいた福ちゃんは、自転車を止めると
「どうかしましたか?…だいじょうぶですか?…」と、側へ近づいて行きました。
よく見ると、彼女は ゲェ〜ゲェ〜 やっているではありませんか。
「うわ〜っ、こりゃ大変だ。ねエ、だいじょうぶ?…」
「あんた誰よ… 見りゃ分かるでしょ… だいじょうぶじゃないわよ〜っ… ウィ〜っ」
どうやら彼女は、かなり酔っているようです。

「しっかりしろよ。立てるかい。歩けるかい。」
「ヤだぁ〜 親切そうな顔して あんた どこ触ってるのよ〜」
ふと気がつくと、福ちゃんの右手は彼女の胸あたりを持ち上げていました。
「あっ、ごめん、ごめん。送ってやるよ、家はどこ?」
「ヤだぁ〜 あんた そんなこと言って なんか下心あんじゃないの〜? …」

なんだかんだと云いながら、引きずるように彼女を抱きかかえ、とあるアパートの前へ着きました。
「ここで いいの?」
「あんた なんで あたしんち 知ってんのよ〜 バ〜カ…」
表札らしき紙切れを見ると、『木下小鈴』と書いてありました。
ぶつぶつ言いながら、彼女はそのアパートの102号室へ入っていきました。
ほのかな 甘い香りを残して…


「おっ ヤバイ。さあ 配達配達」 …